赤外線リモコンをバージョンアップ余談:OSI5LA5113AとL12170の出力比較

目的

L12170は高出力を謳っていて大電流を流すことができるLEDなのですが、出力がどれくらいすごいのかを定量的にとらえようと思います。

指標

IR LED の出力指標には放射強度(Radiant Intensity)と放射束(Radiant Flux)があります。 放射強度と放射束は、どちらもLEDなどの光源から放射される光の量を表す物理量ですが、測定する範囲が異なります。


放射束(Radiant Flux)

放射束は、光源からあらゆる方向に放射される光のエネルギーの総量を表します。単位はワット(W)です。

  • イメージ: 光源全体から発せられる光のパワーの合計です。電球が部屋全体を照らすような場合、その電球から出る光の総量が放射束に相当します。
  • 用途: LEDの効率(電気エネルギーから光エネルギーへの変換効率)を評価する際や、光源が全体的にどれだけ明るいかを比較する際に使われます。

放射強度(Radiant Intensity)

放射強度は、光源から特定の狭い方向に放射される光のエネルギーの密度を表します。単位はワット毎ステラジアン(W/sr)です。

  • イメージ: 懐中電灯🔦が特定の方向を強く照らすような場合、その光の集中度合いが放射強度に相当します。光源が同じ放射束を持っていても、光が特定の方向に集中しているほど放射強度は高くなります。
  • 用途: 狭い範囲を明るくしたい場合や、光を遠くまで届けたい場合(例:リモコン、光通信)に重要な指標となります。LEDの配光特性(光の広がり方)を評価する際に使われます。

💡 放射強度と放射束の関係

これらの関係は、以下の式で表すことができます。

放射束(Φe) = 放射強度(Ie)×立体角(Ω)

この式は、放射強度に、光が広がっている範囲(立体角)を掛けることで、放射束(光の総量)が計算できることを示しています。例えば、半減角が狭い(光が狭い範囲に集中している)LEDは、放射束が同じでも放射強度は高くなります。これは、光のエネルギーがより小さな立体角に凝縮されているためです。

仕様

IR LED 性能比較表(修正版)

項目 OSI5LA5113A L12170 (浜松ホトニクス)
ピーク発光波長 940 nm 870 nm
放射強度 (標準) 60 mW/sr (IF=100mA時) 150 mW/sr (IF=200mA時)
放射束 (標準) 10 mW (IF=100mA時) 80 mW (IF=200mA時)
半減角 30° 30°
順電流 (最大) 100 mA 300 mA
パルス順電流 (最大) 1 A (デューティー比1%) 5 A (デューティー比1%)

1. 関係式

仕様を基に、線形の近似モデルを再構築します。

  • OSI5LA5113A

    • 放射強度: $I_{e_{OSI}} ≈ 60 [mW/sr] × \cfrac{I_F [mA]}{100 [mA]}$
    • 放射束: $Φ_{e_{OSI}} ≈ 10 [mW] × \cfrac{I_F [mA]}{100 [mA]}$
  • L12170

    • 放射強度: $I_{e_{L12}} ≈ 150 [mW/sr] × \cfrac{I_F [mA]}{200 [mA]}$
    • 放射束: $Φ_{e_{L12}} ≈ 80 [mW] × \cfrac{I_F [mA]}{200 [mA]}$

2. 出力比較

同じ電流(100mA)での比較

  • OSI5LA5113A (IF=100mA)

    • 放射強度: 60 mW/sr
    • 放射束: 10 mW
  • L12170 (IF=100mA)

    • 放射強度: $150 [mW/sr] × \cfrac{100 [mA]}{200 [mA]} $= 75 mW/sr
    • 放射束: $80 [mW] × \cfrac{100 [mA]}{200 [mA]} $= 40 mW

この比較では、L12170はOSI5LA5113Aよりも放射強度で約1.25倍放射束で4倍の出力となります。

特定の電流(218mAと655mA)での比較

  • OSI5LA5113A (IF=218mA)

    • 放射強度: $60 [mW/sr] × \cfrac{218 [mA]}{100 [mA]} $= 130.8 mW/sr
    • 放射束: $10 [mW] × \cfrac{218 [mA]}{100 [mA]} $= 21.8 mW
  • L12170 (IF=1090mA)

    • 放射強度: $150 [mW/sr] × \cfrac{655 [mA]}{200 [mA]} $= 491.2 mW/sr
    • 放射束: $80 [mW] × \cfrac{655 [mA]}{200 [mA]} $= 262 mW

この条件では、L12170はOSI5LA5113Aに比べて放射強度で約3.8倍放射束で約12倍の出力となります。


L12170が優れている点

L12170は、OSI5LA5113Aに比べていくつかの点で優れています。

1. 高出力

L12170は、OSI5LA5113Aの約8倍放射束(80 mW vs 10 mW)を持っており、より明るい光を放射できます。放射強度については同程度ですが、これはL12170がより多くの電流を流せることに起因します。

2. 高速応答

L12170は、遮断周波数40 MHzと非常に高く、OSI5LA5113Aよりも高速なデータ通信や変調が可能です。OSI5LA5113Aのデータシートにはこの項目が記載されていませんが、一般的な940nm帯のLEDと比較してもL12170は高速です。

3. 許容電流の高さ

L12170は順電流300 mAパルス順電流5 Aまで許容されます。これはOSI5LA5113A(順電流100 mA、パルス順電流1 A)と比較して大幅に高く、より強力なパルス駆動が可能です。これにより、さらに遠距離への光通信や、より強い赤外線照射が求められる用途に適しています。

4. ピーク発光波長

L12170の870 nmというピーク波長は、シリコンフォトダイオードの受光感度が高い領域に位置しています。一方、OSI5LA5113Aの940 nmは、リモコンなどで広く使われる波長ですが、シリコンフォトダイオードの感度は870 nmよりも低くなります。したがって、L12170は受光側の効率を考慮した場合、より有利になることがあります。

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