赤外線リモコンをバージョンアップ:赤外線信号の高出力化(LEDと駆動回路改造)

標準IR LEDOSI5LA5113Aと高出力IR LEDL12170について、それぞれの駆動回路の最適を検討をします。そのとき、トランジスタ駆動とMOSFET駆動を比較しながら検討します。

BJT vs MOSFET

前提条件

LEDに流す電流は、「赤外線リモコンをバージョンアップ余談:IR LED (OSI5LA5113AとL12170) の許容電流の検討」で考えた、リモコン信号として最大に流せる電流とします。

項目 標準IR LED 高出力IR LED
LED例 OSI5LA5113A L12170
最大駆動電流 200mA(パルス) 650mA(パルス)
制御信号 ESP8266 GPIO(3.3V, ≈12mA) ESP8266 GPIO(3.3V, ≈12mA)
駆動方式 パルス駆動(38kHz or 単発) パルス駆動(38kHz or 単発)

比較

評価軸 200mA級(標準IR LED) 650mA級(高出力IR LED)
BJTでの駆動 ✅ 可能(I_B ≈ 2〜4mA) ❌ 不適(I_B ≈ 40〜60mA → ESP8266では供給不可)
MOSFETでの駆動 ✅ 可能(ロジックレベル品でV_GS(th) < 1.5V) ✅ 可能(IRLZ44N, CSD18534などで余裕あり)
電流制御の再現性 BJT:h_FE依存 → ばらつきあり MOSFET:R_DS(on)依存 → 安定
損失と熱設計 BJT:$V_{CE(sat)}$ × 0.2A ≈ 60mW MOSFET:$R_{DS(on)}$ × 0.65A²(例:0.05Ω → 20mW)
スイッチング性能 BJT:遅延あり(ベース容量) MOSFET:高速(RC定数で制御可能)
ESP8266からの直接駆動 BJT:ギリギリ可能(200mA級のみ) MOSFET:完全対応(ロジックレベル品)
並列駆動の安定性 BJT:電流偏りあり(h_FEばらつき) MOSFET:電流分配安定(R_DS(on)で制御可能)

まとめ(電流別選定)

電流域 推奨素子 理由
~200mA BJT or MOSFET BJTでも駆動可能。MOSFETは再現性・波形忠実度で優位。
~650mA MOSFET BJTは構造的に不適。MOSFETのみが物理的に成立する選択肢。

対象LED:OSI5LA5113A(最大200mAパルス駆動)の場合

赤外LED OSI5LA5113A(順電流最大100mA、パルス時最大1000mA)は、リモコンなどの高速パルス駆動(38kHz搬送周波数)用途に広く用いられます。

ここでは、OSI5LA5113Aの駆動にはBJTを用いることにします。以下の5種の汎用NPNトランジスタを比較し、OSI5LA5113A駆動用途における最適順位を評価します。

  • SS8050
  • 2N2222(2N2222A含む)
  • BC337
  • SS9013
  • 2SC1815

トランジスタの比較一覧(OSI5LA5113Aに特化)

特性項目 SS8050 2N2222 BC337 SS9013 2SC1815
用途分類 電源制御、汎用 汎用、高速スイッチング 汎用、高ゲイン 汎用、小電力 汎用、小信号
$I_C$ (max) 1.5 A 800 mA 800 mA 500 mA 150 mA
$V_{CE(max)}$ 25 V 40 V 45 V 40 V 50 V
$P_D$ (max) 1 W 500 mW 625 mW 625 mW 400 mW
$V_{CE(sat)}$ (typ) 0.5~0.6 V 0.3 V 0.2 V 0.3~0.6 V 0.3~0.6 V
$h_{FE}$(typ) 85~300 100~300 100~600 100~300 70~700
fT(遷移周波数) 100 MHz 250 MHz 200~250 MHz 150 MHz 80 MHz

評価観点と実用優劣(OSI5LA5113A駆動)

① 電流容量($I_C$)

  • SS8050:1.5A → 余裕あり(過剰)
  • 2N2222 / BC337:800mA → 十分
  • SS9013:500mA → 安全域
  • 2SC1815:150mA → 定格オーバーの可能性あり(パルス200mAでは不適)

➡️ 2SC1815は除外。その他は安全に駆動可能。


② 飽和電圧と損失($V_{CE(sat)}$)

  • BC337:最小(0.2V typ) ➝ 発熱・損失が最小
  • 2N2222 / SS9013 / 2SC1815:0.3V程度で良好
  • SS8050:0.5V以上 ➝ 損失大きめ

➡️ BC337が最優秀。SS8050は不利。


③ 制御しやすさ($h_{FE}$)

  • BC337:最大600 ➝ 少ないベース電流でオン可能
  • SS9013 / 2N2222:一般的な値(~300)で問題なし
  • SS8050:ゲインは悪くないが、高負荷時はベース電流多めに必要
  • 2SC1815:ゲインは広いが、電流定格不足で制御性以前に不適

➡️ BC337が制御性でも優位。2SC1815は除外。


下記の表とグラフはベース電流をDC解析して、コレクタ電圧とコレクタ電流を見たものになります。
BC337の優位性は前述の説明どおりですが、2N2222よりもSS9013とSS8050の方がhfeが大きく、より小さなベース電流で飽和領域に達しています。あくまでもシミュレーションなのですが、これは上記の定量的評価とは違う結果となりました。

$V_{CE(sat)}$ [mV] $V_{CE}$ [V]
@200mA
hfe
@200mA
IB [μA]
@200mA
BC337-40 140 0.592 326 614
2N2222 230 0.592 119 1674
SS9013 230 0.592 166 1204
SS8050 140 0.592 167 1195
2SC1815 - - - -

飽和電圧と飽和電流
飽和電圧と飽和電流


④ 応答性(fT

  • 2N2222:250MHz ➝ 高速スイッチングに最適
  • BC337:200~250MHz ➝ リモコン用途に十分対応
  • SS9013:150MHz → 実用範囲
  • SS8050:100MHz → パルス応答が不安定になる傾向
  • 2SC1815:80MHz → 明確に遅い

➡️ 2SC1815とSS8050は応答性で劣る。BC337と2N2222が優位。


これは38KHzのパルスをベースに加えたときの応答を示しています。上のグラフがコレクタ電圧で、下のグラフがコレクタ電流です。応答できているのは、BC337、2N2222とSS9013です。SS8050は応答しているとは言えず、2SC1815は論外です。

サブキャリア(38KHz)での過渡応答
サブキャリア(38KHz)での過渡応答

総合評価(OSI5LA5113A駆動における優先順位)

順位 トランジスタ 主な評価ポイント
🥇 1位 BC337 ・低飽和電圧 ➝ 発熱少
・高ゲイン ➝ 制御しやすい
・応答性も十分
🥈 2位 2N2222 ・高速応答性◎
・バランスの良さと信頼性
・制御性も実用範囲
🥉 3位 SS9013 ・応答性150MHzとまずまず
・コストと入手性の面では◎
・定格も十分
❌ 圏外 SS8050 ・電流余裕はあるが
応答性が劣り、パルス用途に不向き
❌ 圏外 2SC1815 電流定格不足(150mA) ➝ OSI5LA5113Aのパルス駆動には不適

OSI5LA5113Aを高速パルスで駆動する場合、応答性・電力損失・制御性が選定の鍵です。
BC337が最も適しており、2N2222がそれに次ぐ有力候補です。

2SC1815は電流定格不足により、構造的に選定対象外です。
SS8050は電流余裕はあるものの、応答性の低さからリモコン用途には不適です。

構成要素

  • BJTは手持ちの中から、2N2222とします。
  • 電流制限抵抗 R1 は 10Ω です。
  • ベース抵抗は2mA以上流せる$\cfrac{3.3 V-0.7 V}{2 mA}=1.3k \Omega$ 以下を選定します。

対象LED:L12170(最大650mAパルス駆動)の場合

ON抵抗が低く(10mΩ程度)、Gate Threshold Voltageが1V程度のNch-MOSFETを抽出します。ディスクリートであることと入手性も考慮しました。


高出力IR LED L12170駆動用MOSFETの選定

38kHzサブキャリア追従性について(代用値:ゲート電荷量 $Q_g$)

38kHzのサブキャリアにMOSFETが十分追従できるかどうかの重要な指標は、主にゲート電荷量 ($Q_g$)です。$Q_g$が小さいほど、MOSFETのON/OFFに必要な電荷量が少なく、高速なスイッチングが可能です。一般的に、周波数が高くなるほど$Q_g$の小さいMOSFETが有利です。

IR LEDの駆動はパルス駆動であり、MOSFETのスイッチング速度が遅いと、波形がなまってしまい、IR LEDの効率的な発光や、受信側での正確な信号検出に影響が出ます。38kHz(周期約26.3$ \mu s$)のスイッチング速度では、MOSFETのターンオン/ターンオフ時間が数10ns~100ns程度に収まることが望ましいです。

各MOSFETのデータシートから$Q_g$の典型値を比較し、上記表の「38kHz追従性(目安)」を評価しました。

  • $Q_g$が小さいもの(〇): 比較的容易に38kHz追従可能。
  • $Q_g$がやや大きいもの(△): ゲートドライバ回路の工夫(高電流出力ドライバの使用など)が必要になる場合がある。

型番 メーカー R_DS(on)_(最大) V_GS(th)_(しきい値) パッケージ 実装(ディスクリート) 38kHz追従性(目安) 備考
IRLZ44N Infineon / Vishay 約 22 mΩ @ $V_{GS}$=5V 1.0~2.0V TO-220 △ (Qgやや大) 秋月電子などで入手可能
IRL540N Infineon / Vishay 約 44 mΩ @ $V_{GS}$=10V 1.0~2.0V TO-220 △ (Qgやや大) 低$V_{GS}$駆動向け
IRL3705N Infineon / Vishay 約 11 mΩ @ $V_{GS}$=4V 1.0~2.0V TO-220 〇 (Qg比較的小) 高電流用途にも対応
CSD18540
Q5B
Texas Instruments 約 4.5 mΩ @ $V_{GS}$=4.5V 1.0V typ SON 5x6mm 〇 (Qg極小) 表面実装、小型高性能、QFNパッケージのため実装に注意
IRLR3410 Infineon / IRF 約 105 mΩ @ $V_{GS}$=10V 約 1.0~2.0V DPAK (TO-252) 〇 (Qg比較的小) 表面実装、ロジックレベル駆動対応
IRLU3410 Infineon / IRF 約 105 mΩ @ $V_{GS}$=10V 約 1.0~2.0V IPAK(TO-251) 〇 (Qg比較的小) スルーホール(THT)、ロジックレベル駆動対応
2SK2232 Toshiba 約 42 mΩ @ $V_{GS}$=10V 0.8~2.0V TO-220AB △ (Qgやや大) 低ON抵抗、高耐圧(100V)だが、生産終了品

各MOSFETのゲート電荷量 ($Q_g$) 比較表

以下に、各MOSFETの代表的なゲート電荷量 ($Q_g$) を示します。これらの値はデータシートから引用していますが、測定条件($V_{DS}$, $V_{GS}$)によって多少異なる場合があります。

型番 メーカー $Q_g$ (Total Gate Charge) (typ.) $Q_{gd}$ (Gate-Drain Charge) (typ.) $Q_{gs}$ (Gate-Source Charge) (typ.) 備考
IRLZ44N Infineon / Vishay 63 nC @ $V_{GS}$=5V 15 nC 15 nC
IRL540N Infineon / Vishay 71 nC @ $V_{GS}$=10V 16 nC 22 nC
IRL3705N Infineon / Vishay 145 nC @ $V_{GS}$=10V 40 nC 26 nC ($V_{GS}$=4V時 約60nC程度と推測)
CSD18540
Q5B
Texas Instruments 20.4 nC @ $V_{GS}$=4.5V 8.2 nC 5.8 nC 最も小さい $Q_g$
IRLR3410 Infineon / IRF 32 nC @ $V_{GS}$=5V 6 nC 6.5 nC
IRLU3410 Infineon / IRF 32 nC @ $V_{GS}$=5V 6 nC 6.5 nC
2SK2232 Toshiba 80 nC @ $V_{GS}$=10V 13 nC 18 nC 高耐圧のため$Q_g$は大きめ

注記:

  • $Q_g$ はゲートを完全にONするために必要な電荷の総量です。
  • $Q_{gd}$ (ミラー電荷) は、MOSFETのスイッチング速度に最も影響を与える要素の一つです。$Q_{gd}$が大きいと、ゲート電圧の変化が遅くなり、スイッチング時間が長くなります。
  • IRL3705Nの$Q_g$値は$V_{GS}$=10V時のものですが、ロジックレベル駆動($V_{GS}$=4V~5V)ではより小さくなります。データシートによると、$V_{GS}$=4V時では約60nC程度と推定されます。

各MOSFET評価

高出力IR LED L12170(電流650mA)を38kHzで駆動する用途において、各MOSFETの評価は以下の通りです。

  1. IRLZ44N, IRL540N, 2SK2232:

    • ON抵抗: L12170の駆動電流を考慮すると、ON抵抗が20mΩ~40mΩ程度では、ON時の損失がそれぞれ、$I^2 R = (0.65A)^2 \times 0.022\Omega = 0.009W$~$(0.65A)^2 \times 0.044\Omega = 0.019W$程度発生します。これは許容範囲内ですが、よりON抵抗が低い方が発熱を抑えられ、効率も向上します。
    • $V_{GS(th)}$: 1.0~2.0Vの範囲であり、ロジックレベル(3.3Vや5V)での駆動が可能ですが、安定したON状態を確保するには十分なゲート電圧($V_{GS}$=5V以上推奨)が必要です。
    • 38kHz追従性: $Q_g$が比較的大きいため、高速スイッチングにはゲートドライバ回路の工夫が必要になる可能性があります。特に2SK2232は高耐圧MOSFETのため、$Q_g$が大きめです。
    • 入手性: IRLZ44N, IRL540Nは比較的良い。2SK2232は生産終了品のため、新規設計には不向きです。
  2. IRL3705N:

    • ON抵抗: 約11mΩと非常に低く、高電流駆動時の損失を大幅に抑えられます。これは非常に大きなメリットです。L12170の2A駆動でも、$ (0.65A)^2 \times 0.011\Omega = 0.004W$ と非常に低いです。
    • $V_{GS(th)}$: 1.0~2.0Vであり、ロジックレベル駆動に適しています。$V_{GS}$=4Vで11mΩを達成しているため、5V駆動であれば十分に性能を発揮できます。
    • 38kHz追従性: $Q_g$も比較的良好で、38kHzのスイッチングにも十分対応可能です。
    • 入手性: ディスクリート(TO-220)で入手性が良く、バランスの取れた非常に有力な候補です。
  3. CSD18540Q5B:

    • ON抵抗: 約4.5mΩと圧倒的に低く、損失を最小限に抑えることができます。これは非常に魅力的です。
    • $V_{GS(th)}$: 1.0V typicalと低く、ロジックレベル駆動に最適です。
    • 38kHz追従性: $Q_g$も極めて小さく、38kHzはもちろん、より高速なスイッチングにも対応できます。
    • 入手性: 表面実装(SON 5x6mm)のため、ディスクリート実装を前提とする場合は実装難易度が高くなります。この点が唯一の課題です。
  4. IRLR3410 / IRLU3410:

    • ON抵抗: 約105mΩと、他の候補に比べてやや高めです。L12170の2A駆動では$ (0.65A)^2 \times 0.105\Omega = 0.044W$ の損失が発生しますが、発熱はわずかです。比較対象のMOSFETのなかでON抵抗値が大きいのですが、LEDの駆動電流が0.65Aの場合、発熱を気にするほどではありません。
    • $V_{GS(th)}$: 1.0~2.0Vとロジックレベル駆動に対応しています。
    • 38kHz追従性: $Q_g$は比較的小さく、スイッチング速度は問題ありません。
    • 入手性: 表面実装(DPAK)とスルーホール(IPAK)の両方があり、入手性も良好です。
    • 評価: ON抵抗が高すぎるため、高出力IR LEDの駆動には不向きと言えます。

総合評価:

高出力IR LED L12170を38kHzサブキャリアで駆動するという用途においては、以下の2つが最も有力な候補です。

  • IRL3705N:

    • 利点: 低ON抵抗(11mΩ)、ロジックレベル駆動対応、TO-220パッケージでディスクリート実装が容易、38kHz追従性良好、入手性良好。バランスが非常に優れています。
    • 懸念点: 特になし。
  • CSD18540Q5B:

    • 利点: 極めて低いON抵抗(4.5mΩ)、極めて低いV_GS(th)_、極めて良好な38kHz追従性(高速スイッチング)。性能面では最高峰です。
    • 懸念点: 表面実装(SON 5x6mm)のため、手実装には不向きであり、プリント基板設計および実装技術が必要になります。

結論として、ディスクリート実装を前提とし、かつ性能と入手のバランスを考えると、IRL3705Nが最も推奨されます。もし表面実装が可能で、最高の効率と性能を追求するのであれば、CSD18540Q5Bが最適です。


2SK2232の問題点と対策

IRL3705Nをネットで探したのですが、安価に入手できそうにありませんでした。変わりに2SK2232を手に入れたので、これを使うことを考えます。このMOSFETでのリモコンDIY例も複数あります。[1], [2]

2SK2232は、高耐圧(V_DSS_=100V)のMOSFETであり、その特性上、他の低耐圧MOSFETと比較してゲート電荷量 ($Q_g$) が比較的大きい傾向にあります(typical値80nC)。

  • 具体的な問題点:
    1. ターンオン/オフ時間の遅延: 80nCという$Q_g$は、38kHzの高速スイッチングにおいては無視できない値です。標準的なマイコンのGPIO出力(数mA~十数mA)で直接駆動した場合、ゲートの充放電に時間がかかり、MOSFETのターンオン/オフ時間が数百ns~1マイクロ秒以上に延びる可能性があります。
    2. スイッチング損失の増加: スイッチング時間が長くなることで、MOSFETが「半導通状態」にある時間が長くなり、この間にドレイン電流とドレイン-ソース間電圧が同時に存在するため、MOSFETでの発熱が大きくなります。これは、IR LEDの高出力駆動における効率低下と、MOSFETの寿命低下に繋がります。
    3. 波形のなまり: IR LEDへの電流波形が方形波から台形波に近くなり、サブキャリア信号の立ち上がり・立ち下がりが鈍くなります。これにより、特に信号の受信側で正確なパルス幅や周期の検出が困難になる可能性があります。L12170のピーク電流が大きいため、この波形のなまりは無視できません。

2SK2232を使用する場合の対応策

2SK2232の潜在的な問題を解決し、38kHzのサブキャリアに安定して追従させるためには、ゲートドライバ回路の強化が必須です。

  1. 専用ゲートドライバICの使用:

    • 最も推奨される方法です。MOSFET駆動用の専用ゲートドライバIC(例: TC442Xシリーズ, MCP140Xシリーズ, UCC275XXシリーズなど)を使用します。
    • これらのICは、数十nsの立ち上がり/立ち下がり時間で数アンペアのピーク電流を供給できる能力を持っています。これにより、MOSFETのゲートを非常に高速に充放電し、$Q_g$が大きくても短時間で完全にON/OFFさせることが可能になります。
    • 利点: 安定した高速スイッチング、スイッチング損失の最小化、シンプルな回路構成。
    • 考慮点: ドライバIC自体の選定、電源電圧、消費電流。
  2. バイポーラトランジスタによるプッシュプル段の追加:

    • マイコンのGPIO出力とMOSFETゲートの間に、NPN/PNPトランジスタ(例: 2SC1815/2SA1015など)を組み合わせたプッシュプル回路を追加します。
    • これにより、マイコンの出力電流が小さくても、MOSFETゲートへより大きな電流を供給できるようになります。
    • 利点: 比較的安価に実現可能、専用ICより部品点数が少ない場合もある。
    • 考慮点: トランジスタのスイッチング速度と電流容量の選定、回路設計がやや複雑になる、専用ICほどの高速性は期待できない場合がある。
  3. ゲート抵抗 ($R_g$) の最適化:

    • ゲート抵抗は、ゲート電流を制限し、ゲートのリンギングを抑制する役割がありますが、大きすぎるとスイッチング速度を低下させます。
    • $Q_g$が大きいMOSFETでは、ゲートドライバの出力インピーダンスとMOSFETの入力容量の共振を防ぎつつ、できるだけ小さいゲート抵抗(数Ω~数十Ω程度)を選定することが重要です。
    • 対応策: ドライバICの能力とMOSFETの$Q_g$を考慮し、実際にオシロスコープでゲート波形を観測しながら最適な抵抗値を決定します。

簡素な回路構成にしたいので、ゲート抵抗 ($R_g$) 案を使います。

ゲート抵抗選定の論理

1. 応答時間の制約

38kHz変調に対応するには、MOSFETのターンオン/オフ時間が数μs以下である必要があります。 目安として:

$$t_{switch} < \frac{1}{10} \cdot T_{period} \approx 2.6\ \mu s$$

2. ゲート充電時間の近似式

$$t_{rise} \approx R_g \cdot \frac{Q_g}{V_{drive}}$$

仮定:

  • $Q_g = 30\ \text{nC}$
  • $V_{drive} = 3.3\ \text{V}$
  • $t_{rise} < 2.6\ \mu s$
3. ゲート抵抗算出

$$R_g < \frac{2.6\ \mu s \cdot 3.3\ \text{V}}{30\ \text{nC}} \approx 286\ \Omega$$

4. シミュレーション比較

下図はゲート抵抗を1Ωから286Ωまで変化させたときのコレクタ電流(上グラフ)とコレクタ電圧(下グラフ)です。10Ω以下では電流の立ち上がりにオーバシュートがあり、50Ωを超えると波形のなまりが見られます。

ゲート抵抗の効果としては、小さいほど高速応答だが、ノイズやオーバシュートが増えるという課題があります。実機回路としては程良いところとして、47Ωを選択します。

ゲート抵抗
ゲート抵抗

まとめ:

2SK2232は高耐圧で堅牢なMOSFETですが、その比較的大きな$Q_g$は38kHzの高速スイッチングにおいてボトルネックとなります。この問題を解決し、安定したIR LED駆動を実現するためには、専用のゲートドライバICを用いるか、バイポーラトランジスタによるプッシュプル段を設けるなどして、MOSFETのゲートを高速かつ大電流で駆動する回路の工夫が不可欠です。ゲートドライバを適切に設計することで、2SK2232でも38kHzの追従は可能になりますが、スイッチング損失や波形品質を考えると、ON抵抗と$Q_g$がより小さいIRL3705NCSD18540Q5BのようなMOSFETが、設計の容易さや性能面で有利であることは変わりません。

2SK2232での具体的な回路構成とシミュレーション

ベストな選択肢であるIRL3705Nとの比較をシミュレーション上で行います。オン抵抗がちょっと高めだけれどロジックレベル駆動に適しているIRLU3410も比較対象とします。このMOSFETリモコンは製作事例があります。

グラフは上から、IRLU3410、IRL3705N、2SK2232の順です。

2SK2232はゲート電圧2Vで切換り始め、2.5VまでにほぼON状態になっています。これはIRL3705Nと比べて同程度と考えられます。また、3VにおけるON抵抗は141mΩです。

DC解析
DC解析

38KHzのサブキャリア周波数のパルスを加えたときのシミュレーションを示します。3つのMOSFETとも問題なく動作して600mAを超える電流を流せていることが分かります。

38kHz pluse
38kHz pluse

最後に、実測した結果を載せます。ゲート電圧:CH1(黄色)、電流制限抵抗下流電圧:CH2(水色)、電源電圧:CH3(ピンク色)です。電流制限抵抗での電圧降下:CH3-CH2(紫色)を抵抗値5.5Ωで割るとIR LEDに流れる電流が求められます。

$ I_{LED}=\cfrac{V_{CH3}-V_{CH2}}{R4}=\cfrac{3.11 V}{5.55 \Omega}=560 mA $

LED電流

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